生活情報紙「あれんじ」公式サイト

トップ最新号とバックナンバー読者プレゼント

白み始めた時刻の大畑駅。古びた駅舎の姿に郷愁が漂います
美しいふるさと 初秋の蘇陽へ

郷愁誘う大畑駅のグラデーション

大畑駅の玄関に白熱電球の明かりが灯ります
 
駅舎内には名刺がいたるところに張られています


 まだ夜が明けない午前4時…。鳥や虫たちも眠りの中にいる闇に忍び込むように、JR肥薩線・大畑駅へやって来ました。駅舎は褐(かち)色に染まり、かすかに輪郭を縁取るのみで、これから白み始める夜明けを静かに待っているようです。
 わざわざこんな時刻に大畑駅を訪れたのには、理由があります。それはかつて、多くの旅客でにぎわったこの駅のノスタルジーを移り変わる“時間の色”の中に感じ取りたいと思ったからです。
 暗闇の駅舎の中に足を踏み入れた途端、白熱電球の明かりが灯りました。駅員が常駐しない無人駅のこんな時間にあっても配置されたセンサーは、夜半の訪問者を温かく迎えてくれます。 
 駅舎の中は掃除が行き届いていました。窓や壁は、全国から訪れた人たちの名刺がびっしりと張られています。何でも、ここに名刺を張ると出世するというジンクスが、まことしやかに伝わっているそうです。
 夜明けは急ぎ足でやって来ます。停車場に立ち駅舎を振り返ると、白熱電球の時代の色と、すでに薄闇へと移り変わった瑠璃(るり)色のコントラストが、言いようのない慕情を連れてきます。それは、小説か何かの映画に寄せた思いからきたものか、懐かしい記憶の中にある歌謡曲がひもとく感傷なのかわかりませんが、なぜか切なくなるのです。
 あたりが次第に白み始めると、昨夜からの雨のせいか、朝霧が立っていることがわかります。こんな時刻を「彼は誰時(かはたれどき)」と呼びます。「彼が誰だか尋ねないとわからない時刻」という意味で、対して、黄昏(たそがれ)は「誰そ彼」。日本の風流な言葉の一つです。
 やがて空は群青色に変わり、停車場から肥薩線の線路がはっきりと目に映ります。鳥の鳴く声が降りてきました。
 朝が始まります。


>> 2 夜明けの停車場で名誉駅長さんに出会う
※各情報は掲載時のものです。料金や内容が変わっている場合もあります。
  あれんじ気まま旅
Vol.60(2012.9.15)掲載
渡る風に秋を感じる季節、人吉にあるJR大畑(おこば)駅、矢岳(やたけ)駅を訪ねました。そこには、どこまでも続く線路のように、人のご縁の巡りも同じだと、感慨深く思えた旅がありました。

文=福永和子 写真=松永育美(グラフ)
表紙=夜明け前のJR大畑駅の停車場にて



時間に移ろう“色”を旅して 人吉
郷愁誘う大畑駅のグラデーション
夜明けの停車場で 名誉駅長さんに出会う
矢岳駅で見つけた秋の色 駅を愛する人たちの思い
さわやかなカヌー部員の笑顔、人吉グルメ そして、つながる嬉しいご縁

くまにちコム


このページのトップに戻る↑



掲載の記事、写真の無断複製・転載を禁じます
Copyright Kumamoto Nichinichi Shimbun