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(1)平家の里の自然が紡ぐ色 静かさの中に華やかさ

広々とした工房にある機織り機

(1)平家の里の自然が紡ぐ色 静かさの中に華やかさ

2015年10月17日
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2階には6畳二間の隠し部屋がある「緒方家」

秋色に色づくせんだん轟の滝 (仁田尾・五家荘観光案内所提供)

空を覆うようにそびえる高い山々。吹き抜ける風の冷たさに、秋の訪れを感じます。清れつな流れの渓谷沿いのつづら折りの道を進みながら思うのは、平家の落人たちの物語です。平安時代、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の落人は、源氏の追討を逃れるために、山深きこの地にたどり着きました。

都を追われ、命からがら、人跡未踏(じんせきみとう)のこの地へと足を踏み入れた平家の落人たち。「緒方」と姓を変え、下界との接触を断ちながら息をひそめて暮らしたその思いは、はかり知ることができません。

平家の落人が隠れ住んだと伝えられる「緒方家」は、300年前に建てられたかやぶきの屋敷で、今も町の人たちによって手厚く管理されています。2階には隠し部屋もあり、必死の思いで逃げのびた彼らが、遠く都をしのびながら身を寄せ合って暮らした痕跡が、今も屋敷のあちこちから感じられます。

緒方家

 

五家荘の自然の色をそのまま写し取ったような絹糸

さて、これからの季節の五家荘は、混ざり毛糸を集めたような美しい紅葉を見せ始めます。そんな山深い里で、食堂を切り盛りしながら、草木染めに心血を注ぐのが、黒木千穂子さん(50)です。

山で手摘みしたセイタカアワダチソウ、アカネ、ラミーなどの植物を使って染色し、着物や帯、小物などを制作しています。五家荘の自然の色をそのまま写し取ったような絹糸は、なんともいえない優しい色合いです。

五家荘で生まれ育った黒木さんは、高校卒業後に、福岡の染色家に弟子入りしました。「五家荘の植物を使った草木染めは、女性の感性を生かすことができる」という父親のすすめで始めたそうです。

モミジの色合いの変化をモチーフにした着物「山紫水明」

タマネギ、アカネなどで染めたストールは、まるでイタリアのデザインのようなモダンな配色

ラミー、セイタカアワダチソウ、ケヤキなど、五家荘の自然の恵みで染められた絹糸

自然の美しさを織物に込めるというのは根気のいる作業。杼(ひ)を左右に振り、カタン、カタンという音とともに機織り機で織り上げられる草木染めの織物は柔らかい光沢を放ち、素朴な色合いに五家荘の真の美しさを表現しています。

「デザインのモチーフは、散歩からインスピレーションを受けることが多いんですよ」と語る黒木さん。「山紫水明」(写真)と名付けられたその着物は、若草色から、あかね色へと変わりゆく五家荘の紅葉の美しさを見事に表現した作品です。

「ここは、空気も水も、そして人も、何もかもが特別。この地でしか生まれない作品を作っていきたい」

ゆっくりと言葉を選ぶ黒木さんに、ふるさとへ思いの深さを感じます。

広々とした工房にある機織り機。紅葉の季節以外は、機織り体験もできます

食堂の女将として店を切り盛りしながら、草木染めに心血を注ぐ黒木千穂子さん

黒木工房・天領庵